要点:電気工事士の賃金を、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和6年・職種区分「電気工事従事者」)と国土交通省「公共工事設計労務単価」(令和7年3月適用・電工)の公的数値で確認する方法を解説します。月額賃金・年間賞与・日額単価の違いと、求人票での確認につなげる読み方を整理します。
- この記事の結論
- 前提:別記事との住み分け
- 賃金構造基本統計調査:職種区分「電気工事従事者」の数値
対象読者:設備工事会社の経営者・採用責任者
この記事の結論
電気工事士の賃金を公的な数値で確認する場合、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和6年)では職種区分「電気工事従事者」、国土交通省「公共工事設計労務単価」(令和7年3月適用)では職種「電工」という、名前も意味も異なる2つの区分が対応します。本記事では、この2つの統計がそれぞれ何を測っているのかを分解し、数値を読み替えずに確認する方法を整理します。重要な前提として、統計の賃金は産業構造上の平均値であり、求人票の給与や実際の支給給与とは別物です。「自分が受け取れる金額」の確認は、あくまで求人票の読み解きと組み合わせる必要があります。
前提:別記事との住み分け
本サイトには、電気工事士の収入をテーマにした記事が2系統あります。
- 「電気工事士の年収・給料はいくら?収入を決める要素と確認方法」=個人が求人票で自分の条件を確認する方法を扱った記事
- 本記事(377)=公的統計の構造を読むための記事
「自分の年収はいくらになるか」を知りたい方は前者を、業界の賃金水準を公的データで押さえたい方・採用担当者で賃金の社内説明に公的統計を使いたい方は本記事を読んでください。両者は置き換えではなく、組み合わせて使う関係です。
なお、同じ賃金構造基本統計調査を施工管理側の職種区分(「建築技術者」「土木技術者」)で読む手順は「施工管理の賃金を公的統計で見る」に整理しています。電工と建築・土木技術者の区分を職種をまたいで比較したい場合は、両記事をセットで参照してください。さらに、賃金水準の地域差が人手不足(有効求人倍率)の地域差とどう対応するかを、電気・空調・配管・消防の設備4職種で比較した分析は「求人倍率が高いのに賃金が低い県がある——設備4職種の賃金×人手不足相関」に整理しています。
賃金構造基本統計調査:職種区分「電気工事従事者」の数値
賃金構造基本統計調査は、厚生労働省が事業所を標本調査し、労働者の賃金の実態を明らかにする基幹統計です。令和6年調査(2025年3月公表)では、職種(小分類)区分のひとつとして「電気工事従事者」が集計されています。
ここで必ず確認していただきたいのは、「電気工事従事者」は職業分類上の区分名であり、「電気工事士」(第一種・第二種)という資格名とは別物だという点です。統計上の区分に該当する労働者すべてが電気工事士の資格保持者であることを意味しないし、逆に資格を持つ人がすべてこの区分に集計されるわけでもありません。統計の数値を引用するときは、必ず調査名・年度・区分名をセットで明記するのが原則です。
令和6年賃金構造基本統計調査・職種(小分類)、性別表・企業規模計(10人以上)・産業計に基づく「電気工事従事者」の主な値は次のとおりです(e-Stat公表の統計表から確認)。
| 項目 | 男女計 | 男 | 女 |
|---|---|---|---|
| きまって支給する現金給与額(月額) | 367.6千円 | 369.4千円 | 302.7千円 |
| うち所定内給与額(月額) | 318.1千円 | 319.2千円 | 276.5千円 |
| 年間賞与その他特別給与額 | 1,064.9千円 | 1,071.3千円 | 829.9千円 |
| 平均年齢 | 43.4歳 | 43.4歳 | 42.7歳 |
| 平均勤続年数 | 12.7年 | 12.8年 | 10.6年 |
| 超過実労働時間数(月平均) | 17時間 | 18時間 | 11時間 |
| 労働者数 | 222,100人 | 216,150人 | 5,950人 |
なお、e-Stat上の表を自分で開くと、企業規模別(1,000人以上・100〜999人・10〜99人)の列が並んでいます。上記は必ず「企業規模計(10人以上)」の列を読んでください。規模別の列を読み違えると数字がずれます。
年収への試算(計算式を明示して行う)
賃金構造基本統計調査は月額給与と年間賞与を別々に公表しているため、年収を試算する場合は「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額」という計算式を明示する必要があります。男女計にこの式を当てはめると、367.6千円×12+1,064.9千円=5,476.1千円(約548万円)が本記事の試算値です。これは観測された平均値から算出した参考値であり、「電気工事士の年収は548万円」と断定するための数値ではありません。平均年齢43.4歳・平均勤続12.7年の労働者層の平均値であり、あなたの年齢・勤続・地域・残業量に当てはめた値ではありません。
また、超過実労働時間数(月平均17時間)は月額給与に残業代が含まれた状態の平均値です。残業量が異なる企業の実態とは一致しないため、比較には注意が必要です。
公共工事設計労務単価:職種「電工」の日額

もうひとつの公的指標が、国土交通省が毎年公表する「公共工事設計労務単価」です。こちらの職種名は「電工」です(先ほどの「電気工事従事者」とは調査も区分名も異なります)。
労務単価は、公共工事の工事費積算に使うための、所定労働時間内8時間あたりの日額単価です。令和7年3月から適用される単価について、国土交通省が公表した職種別・都道府県別の単価表(令和6年10月調査に基づく)の電工の値を47都道府県分すべて確認し、単純平均を計算すると26,270円/日となりました。前年度(令和6年3月適用、24,198円)と比べると+8.6%の引き上げです。なお、同発表によると全国全職種の加重平均値は24,852円で、単純平均ベースの伸率は+6.0%でした。
いくつかの地域の電工の値(令和7年3月適用)を示すと、東京都32,600円・埼玉県29,300円・神奈川県29,800円・大阪府26,600円・沖縄県21,600円など、地域差が明確に存在します。単純平均26,270円はあくまで全国47都道府県を均等に扱った参考値であり、加重平均とは水準が異なります。
労務単価は「実態賃金」ではない
ここが最も誤解されやすい点です。労務単価は公共工事の積算基準であり、労働者に実際に支払われる賃金そのものではありません。国土交通省の資料には、次のような性質が明記されています。
- 労務単価は「労働者本人が受け取るべき賃金を基に」設定されるが、日給制の労働者が受け取る日当よりも広い概念で、法定福利費を全額反映したもの
- 単価には、事業主が負担すべき必要経費(法定福利費、安全管理費等)や一般管理費等の諸経費は含まれていない
- 時間外・休日・深夜の割増賃金は含まれていない
つまり労務単価は積算上の基準値であり、現場の電気工事士が手取りで受け取る金額とは別物です。労務単価の上昇(電工で+8.6%)は「公共工事の積算に使う人件費の基準が上がった」ことを示すものであり、直ちに「電気工事士の給料が8.6%上がった」ことを意味しません。ただし、積算基準の上昇は工事費に占める人件費の見直し圧力として働くため、雇用側の賃金決定の環境変数として観測する意義はあります。
都道府県別・職種別の労務単価まとめ(令和7年3月適用)
「電気工事単価表」や「労務単価都道府県別」で確認したい人のために、令和7年3月適用の公共工事設計労務単価から、設備工事の主要職種(電工・配管工・ダクト工・設備機械工)の地域別の値を抜粋して整理します。いずれも所定労働時間内8時間あたりの日額です。
| 都道府県 | 電工 | 配管工 | ダクト工 | 設備機械工 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 27,600 | 25,500 | 25,200 | 28,500 |
| 宮城県 | 28,200 | 27,700 | 24,600 | 27,200 |
| 埼玉県 | 29,300 | 27,100 | 29,200 | 27,700 |
| 千葉県 | 29,700 | 27,700 | 28,900 | 27,800 |
| 東京都 | 32,600 | 28,600 | 29,600 | 28,000 |
| 神奈川県 | 29,800 | 26,900 | 28,300 | 27,800 |
| 愛知県 | 26,400 | 26,100 | 27,100 | 30,700 |
| 大阪府 | 26,600 | 27,200 | 26,100 | 28,000 |
| 兵庫県 | 25,100 | 24,400 | 25,700 | 28,000 |
| 広島県 | 24,700 | 23,600 | 22,800 | 27,700 |
| 福岡県 | 26,500 | 24,600 | 24,700 | 28,100 |
| 沖縄県 | 21,600 | 21,800 | 21,300 | 24,500 |
※ 出典は国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価」の職種別都道府県別単価表PDF。単位は円/日で、47都道府県・51職種の公表値の一部(12都道府県×4職種)を抜粋したものです。全47都道府県の電工の値は、47県をランキング形式で比較した「電気工事士の求人賃金は都道府県でいくら違うか|公的統計47県ランキング」で扱っています。
この表から読み取れるのは、次の2点です。
- 電工の地域差は大きい: 東京都32,600円に対して沖縄県は21,600円と、約1.5倍の開きがあります(32,600÷21,600=1.509)。
- 職種間の相対関係は地域で入れ替わる: 電工は東京都で最も高い一方、設備機械工は愛知県(30,700円)が東京都(28,000円)を上回るなど、「電工が常に高い」という構造ではありません。
なお、これらの単価は公共工事の積算用の基準値であり、「労務単価は実態賃金ではない」の節で整理したとおり、法定福利費や割増賃金を含みません。歩掛(人工/m)と組み合わせて労務費を積算する実務への接続は「電気工事の歩掛表はどう使う?公共工事標準歩掛と民間見積の乖離を防ぐ実務」で、求人市場の給与水準の観測は「電気工事士の求人給与、中央値は26.0万円|求人給与指数」で解説しています。
2つの統計の関係と、読むときの注意
| 観点 | 賃金構造基本統計調査 | 公共工事設計労務単価 |
|---|---|---|
| 作成主体 | 厚生労働省 | 国土交通省 |
| 区分名 | 電気工事従事者 | 電工 |
| 単位 | 月額(千円)+年間賞与 | 日額(円、所定内8時間) |
| 母体 | 事業所標本調査(全産業) | 1,000万円以上の公共工事の賃金台帳 |
| 用途 | 賃金実態の把握 | 公共工事の積算 |
この表から分かるとおり、2つは母体も単位も目的も違います。数値を混ぜて比較する(月額と日額を並べる、母体の違う平均を足す)のは避けてください。
もうひとつの注意は、これらの統計値が「求人票の給与」や「実際の支給給与」と一致しないという点です。賃金構造基本統計調査は在職者の平均構造を示すものであり、求人市場に提示される条件ではありません。転職・就職の判断に使う場合は、公的統計で水準感を押さえたうえで、最終的には個々の求人票の給与内訳(基本給+手当+残業の目安+賞与実績)を確認する必要があります。その手順は「電気工事士の年収・給料はいくら?」で解説しています。
本記事では、調査の存在と区分名、主要な公表値までを確認しました。最新年度の職種別表・地域別の詳細は、e-Statまたは厚生労働省の統計表で必ず原典を確認してください。統計は毎年更新され、区分名や表構成が変わることもあるため、本記事の値をそのまま翌年以降に流用しないでください。
設備会社の採用担当者への接続
公的統計は、採用側の設計にも使えます。人材紹介に頼る採用コストの構造は「建設業の人材紹介は高すぎる?紹介会社依存と自社採用のコストを比較」で、新人教育に先輩社員の時間がどれだけ動くかの記録の枠組みは「新人教育に先輩社員は何時間使っている?」で解説しています。賃金統計(外部の水準)と教育コスト(社内の投資)をセットで見ると、採用条件の設計が現実的になります。
よくある質問
Q. 「電気工事従事者」と「電気工事士」は同じですか?
いいえ。「電気工事従事者」は賃金構造基本統計調査における職種区分の名称で、電気工事の作業に従事する労働者の集計区分です。「電気工事士」(第一種・第二種)は国家資格の名称です。統計の数値を資格保持者の収入と読み替えることはできません。引用時は調査名・年度・区分名をセットで明記してください。
Q. 労務単価26,270円/日は「電気工事士の給料」ですか?
いいえ。公共工事設計労務単価の電工は、公共工事の工事費積算に使う日額の基準値です。所定労働時間内8時間あたりであり、必要経費や割増賃金を含まず、実際の支給給与とは異なります。公共工事の積算や人件費環境の観測に使う数値で、個人への給与約束として読む数値ではありません。
Q. 統計の平均年収をそのまま自分の年収予測に使えますか?
使えません。平均値は平均年齢・平均勤続・平均残業量の労働者層の構造値です。年齢・地域・雇用形態・残業量・資格手当の有無が異なれば水準は変わります。公開求人市場上の比較レンジを把握する用途にとどめ、自分の条件は求人票で確認するのが確実です。
まとめ
- 賃金構造基本統計調査(令和6年)の職種区分は「電気工事従事者」。資格名の「電気工事士」とは別物
- 男女計の月額きまって支給する現金給与額は367.6千円、年間賞与は1,064.9千円(本記事の試算で約548万円/年、式明示)
- 公共工事設計労務単価の「電工」は令和7年3月適用で、47都道府県の公表値の単純平均が26,270円/日(前年度比+8.6%)
- 労務単価は積算基準であり実態賃金と別物。統計値は求人票の給与・実際の支給給与とも一致しない
- 水準感は公的統計、自分の条件は求人票、という順序で使う
参考文献
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」結果の概要: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou_a.html
- e-Stat「賃金構造基本統計調査」令和6年統計表(第1表職種(小分類)、性別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)): https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429&tclass1=000001224440
- 国土交通省「公共工事設計労務単価」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000217.html
- 国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価」(記者発表・職種別都道府県別単価表PDF): https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00261.html / https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001864366.pdf
- 国土交通省「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価」(前年度比較用・職種別都道府県別単価表PDF): https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00204.html / https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001724088.pdf
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