要点:属人化は担当者の抱え込みではなく、組織側の設計で起きます。マニュアル作成が失敗する理由と、業務を分解して引き継げる形にする4つの手順を整理しました。
- この記事の結論
- 「あの人しかできない」は、本人の問題ではありません
- こんな状況になっていませんか
対象読者:AI・DX導入を検討中の経営者・プロジェクト責任者
この記事の結論
- 属人化は、担当者が抱え込んでいるから起きるのではありません。分解されていない業務は、構造上ひとりにしか渡せません
- マニュアル作成が失敗するのは、手順を書いているのに判断基準を書いていないためです
- 解消の順序は「切り出す → 判断基準を出す → 例外を集める → 渡す」。逆から始めると必ず戻ります

属人化の解消には、業務を分解し、判断基準を明確にすることが重要です。
※ この記事は 生産性が上がらない本当の理由 で挙げた3つの論点のうち、「渡せない業務が溜まっている」を掘り下げたものです。
「あの人しかできない」は、本人の問題ではありません
属人化が話題になると、しばしば担当者の姿勢が問題にされます。情報を出さない、教えない、囲い込んでいる。
実際に現場を見ていくと、事情は違うことがほとんどです。渡そうとしても渡せない形になっているのです。
たとえば「請求内容の最終確認」という業務。手順は書けます。しかし実際にその人がやっているのは、過去の経緯、取引先ごとの温度感、例外的な取り決めを頭の中で照合する作業です。ここは手順ではなく、判断です。
判断が言語化されていない業務は、どれだけ丁寧に手順書を書いても渡りません。
こんな状況になっていませんか
- 特定の人が休むと、その業務だけ止まる
- マニュアルを作らせたが、読んでも同じ結果にならない
- 「念のため確認します」と言われ、結局その人に回っている
- 引き継ぎ期間を設けたのに、退職後に問い合わせが発生している
- ベテランほど「感覚でやっている」としか説明できない
4つ目と5つ目は、判断が言語化されていない典型的な兆候です。
属人化が起きる3つの構造的理由
理由1:業務が分解されていない
「請求処理」という1つの塊として扱われている限り、渡せる相手はその塊全部を扱える人だけになります。
分解すると景色が変わります。データの転記、金額の照合、例外の判断、承認。このうち判断が必要なのは1つだけというケースは珍しくありません。塊のままだと、渡せる相手がゼロになります。
理由2:判断基準が本人にも見えていない
長年やっている人ほど、自分が何を基準に判断しているかを説明できません。無意識化しているためです。
これは能力の問題ではなく、熟練の正常な帰結です。だからこそ、「教えてください」と聞くだけでは出てきません。聞き方を変える必要があります。
なお、書き出した内容が実際に使われる形になるかどうかは別の問題です。条件は マニュアルが使われない理由 にまとめています。
理由3:渡すと本人が損をする
その業務を手放したあと、より価値の高い仕事に移れる見通しがない。むしろ「あの人でなくてもよくなった」と評価が下がるかもしれない。
この状態で協力を求めるのは、無理な相談です。属人化の解消は、人事の設計とセットでなければ進みません。
解消の4手順
手順1:切り出す
業務を、作業と判断に分けます。分ける粒度は「その工程を、初日の人に手順書だけで任せられるか」で決めます。
任せられるものが作業、任せられないものが判断です。制約条件が本人の頭の中にしかない業務の分解例は シフト作成に毎月何時間かけていますか が具体的です。
手順2:判断基準を出す
ここが最も難しく、最も価値のある工程です。聞き方にコツがあります。
| 効かない聞き方 | 効く聞き方 |
|---|---|
| どうやって判断していますか | 直近で迷ったのはどのケースですか |
| 基準を教えてください | そのとき、何と何で迷いましたか |
| マニュアルを書いてください | 迷った末に、どちらを選びましたか。理由は |
抽象的に問うと出てきません。具体的な1件から遡ると出てきます。
手順3:例外を集める
判断基準が見えてきたら、その基準から外れるケースを集めます。「この取引先だけは別」「月末だけは別」といった例外です。
例外の数が業務の難易度をそのまま表しています。例外が3つなら渡せます。30個あるなら、渡す前に例外そのものを減らす交渉が先です。
手順4:渡す
作業から渡します。判断は最後です。順序を逆にすると、渡された側が判断の材料を持たないまま責任だけを負うことになり、確認のために元の担当者へ戻ります。
属人化の度合いを測る
| 質問 | はい | いいえ |
|---|---|---|
| 業務を作業と判断に分けて説明できますか | 1 | 0 |
| 判断基準を文章で書き出せますか | 1 | 0 |
| 例外は5つ以内に収まっていますか | 1 | 0 |
| その業務の記録が個人のPCの外にありますか | 1 | 0 |
| 担当者が休んだ日、業務は進みますか | 1 | 0 |
合計4〜5点:属人化していません。手を入れる必要はありません。
合計2〜3点:手順1と2から着手してください。
合計0〜1点:まず記録を個人PCの外に出すところから始めます。
道具では解けない領域
総務省の令和8年版情報通信白書によると、日本企業で何らかの業務に生成AIを利用している割合は 86.4% です。
それでも日本生産性本部の集計では、2024年の時間当たり労働生産性は OECD加盟38カ国中28位、実質上昇率は マイナス0.6% にとどまりました。
属人化は、この落差を説明する要因の一つです。判断が言語化されていない業務は、機械にも渡せません。 手順が書けない相手に、機械だけが例外的に理解してくれるということは起こりません。
逆に言えば、手順2をやり切った業務は、人にも機械にも渡せるようになります。属人化の解消は、自動化の前提工程でもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1:ベテランが「感覚です」としか言いません。
A:正常な反応です。直近で迷った具体的な1件を聞いてください。「なぜ迷ったのか」「最終的に何を決め手にしたのか」を3件ほど集めると、共通する軸が見えてきます。抽象的な質問に抽象的な答えが返るのは、聞き方の問題です。
Q2:マニュアルは作ったのに、結局その人に聞きに行きます。
A:手順は書けていて、判断基準が書けていない状態です。マニュアルの中に「適宜」「必要に応じて」「状況を見て」という表現があれば、そこが判断の隠れ場所です。その3語を全部潰すと、実用的な文書になります。
Q3:本人が協力してくれません。
A:理由3に該当している可能性が高いです。手放したあとに何を担当してもらうのかを、先に示してください。「効率化のため」という説明では動機になりません。本人にとって得になる設計が先です。
「属人化は専門性の証だ」という反論にどこまで答えるか
ここまでの説明で「何でも分解すればよいわけではない」と感じた方もいるはずです。その反論のうち、最強の形はこうです。
「『あの人しかできない』仕事があるのは、その人が長年かけて培った専門性があるからだ。業務を切り分けて判断基準を書き出せば、誰でもできる作業に格下げされ、本人のモチベーションも市場価値も下がる。属人化の解消とは、結局エースの価値を薄めて凡庸化することではないか」
この反論は、私たちも半分は正しいと考えます。専門性そのものを解体する必要はありません。実際の運用で私たちが推奨するのは、次の3点です。
- 渡すのは作業からに限定し、判断は最後にする: 本文の手順4で述べたとおり、判断の移譲は最終段階です。まず作業部分を渡すことで、本人の時間は判断という最も価値の高い部分に集中できます。格下げではなく格上げです。
- 手放した後の役割を先に設計する: 理由3で述べたとおり、渡した後に本人により価値の高い仕事を用意します。属人化解消と人事設計はセットで進め、本人が得になる形にします。
- 例外の数で渡す範囲を決める: 例外が30個ある業務は、渡す前に例外自体を減らす交渉が先です。本文の手順3で述べたとおり、無理に渡さず、渡せる形に整えてから渡します。
属人化の解消の目的は「エースの価値を薄めること」ではなく、「エースの判断を組織の資産に変え、本人をより高度な仕事に送り出すこと」です。この設計であれば、上記の懸念は現実のものになりません。
まとめ
- 属人化は抱え込みではなく、業務が分解されていないことで起きます
- マニュアルが効かないのは、手順は書けても判断基準が書けていないためです
- 順序は「切り出す → 判断基準を出す → 例外を集める → 渡す」。作業から渡し、判断は最後です
- 判断が言語化できていない業務は、人にも機械にも渡せません
まず1つ業務を選び、作業と判断に分けてみてください。分けた瞬間に、渡せる部分が見つかります。
次に読む
判断基準を言語化し、ノウハウを社内に残していく取り組みは、外部に依存しない体制づくりそのものです。その進め方はこちらにまとめています。
参考文献・出典
- 令和8年版 情報通信白書|生成AIの業務利用状況 – 総務省, 2026年7月
- 労働生産性の国際比較2025 – 公益財団法人日本生産性本部, 2025年12月
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どの業務が作業で、どこからが判断なのか。切り分けの実務からご相談いただけます。
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