要点:棚卸で在庫が合わないのは数え方ではなく、記録のタイミングと単位のずれが原因です。差異を4種類に分類し、原因を特定して直す手順を整理しました。
- この記事の結論
- 棚卸を増やしても、原因は分かりません
- こんな状態になっていませんか
対象読者:業界別の課題を持つ経営者・現場責任者
この記事の結論
- 在庫が合わない原因は数え間違いより、記録のタイミングと単位のずれが多くを占めます
- 差異は4種類に分かれます。種類が違えば、打ち手も違います
- 棚卸の頻度を増やしても差異は減りません。発見が早くなるだけです

在庫の不一致は記録のタイミングや単位のずれが主な原因であり、棚卸の頻度を上げても差異は減少しません。
※ この記事は 生産性が上がらない本当の理由 で挙げた3つの論点のうち、「測っていない業務がある」を掘り下げたものです。
棚卸を増やしても、原因は分かりません
在庫差異が問題になると、まず棚卸の頻度を上げる案が出ます。年2回を四半期に、月次に。
差異の発見は早くなります。しかし発生そのものは減りません。棚卸は検査であって、対策ではないからです。
減らすには、差異がどこで生まれているかを特定する必要があります。そして差異には種類があります。
こんな状態になっていませんか
- 棚卸のたびに差異が出るが、原因を追わず調整で終わっている
- 特定の商品だけ、いつも差異が出る
- 入出庫の記録が、実際の移動より数時間から数日遅れている
- 「バラ」「箱」「ケース」が混在し、換算を人が計算している
- 差異の履歴が残っておらず、傾向が分からない
最後の項目が該当するなら、まずそこから始めてください。傾向が分からなければ、原因は特定できません。
差異を4種類に分ける
① タイミング差異
現物は動いたのに記録がまだ。あるいは記録は済んだのに現物が動いていない。
特徴:時間が経てば解消します。棚卸の瞬間だけずれて見えます。
見分け方:翌日に再確認すると合う。
② 単位差異
同じ商品を、場所によって違う単位で数えている。バラで記録している人と、ケースで記録している人がいる。
特徴:差異の大きさが、換算比率の倍数になります。
見分け方:差異数が6や12など、入数の倍数で出る。
③ 記録漏れ
サンプル出荷、廃棄、社内利用、返品。正規の入出庫フローを通らない移動が記録されていない。
特徴:常に一方向にずれます。実在庫のほうが少なくなることがほとんどです。
④ 数え間違い
純粋なカウントのミス。
特徴:ランダムに出ます。同じ商品で繰り返しません。
種類別の見分け方と打ち手
| 種類 | ずれ方 | 見分ける手がかり | 打ち手 |
|---|---|---|---|
| ① タイミング | 双方向 | 翌日に合う | 記録を移動と同時にする |
| ② 単位 | 倍数で出る | 入数で割り切れる | 単位を1つに統一する |
| ③ 記録漏れ | 常に一方向 | 実在庫が少ない | 例外フローを記録経路に載せる |
| ④ 数え間違い | ランダム | 再現しない | ダブルチェックより第2層の検知 |
③が最も多く、最も見過ごされます。 正規のフローばかり点検しても見つかりません。
なお④への対策としてダブルチェックを増やすのは、効果が薄い打ち手です。理由は 同じミスが繰り返される会社の共通点 の第4層にまとめています。
単位の統一は、データ整理の問題
②の単位差異は、現場の問題に見えて実はデータ定義の問題です。同じ「数量」という項目に、バラとケースが混在している。
これは 脱Excelはどこから始めるか で挙げた「列の意味を統一する」作業と同じです。1つの列に複数の意味が入っている限り、集計は必ずどこかで狂います。
自動化やシステム移行を検討している場合、この整理は避けて通れません。機械は「この行はケース単位です」とは教えてくれず、混ざったまま計算します。前処理の重要性については AI導入前の「前処理」の絶対重要性 を参照してください。
特定の商品だけ差異が出る場合
「いつもあの商品だけ合わない」というケースは、原因が絞りやすい状態です。
- 入数が変わった(②)
- サンプル出荷が多い(③)
- 保管場所が複数ある(③)
- 類似品と混同されている(④)
商品を絞って1ヶ月、入出庫の全件に記録者と時刻を残してみてください。全商品でやる必要はありません。 1品目で原因が特定できれば、同じ構造の商品にも適用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1:差異が出たら、いつも帳簿を実在庫に合わせています。
A:調整自体は必要です。ただし調整の記録を残してください。日付・商品・数量・方向(増/減)の4項目で足ります。3ヶ月分たまると、①〜④のどれが主因かが見えてきます。
Q2:記録漏れをなくすには、現場の徹底しかないですか。
A:徹底ではなく経路の問題です。サンプル出荷や廃棄に記録の手段が用意されていない場合、現場は記録できません。まず例外用の記録手段を作ってください。手順が無いことを注意で解決しようとすると、同じミスが繰り返される 状態になります。
Q3:システムを入れれば解決しますか。
A:①のタイミング差異には効きます。②③④には、その前に定義と経路を整えている場合にのみ効きます。順序は 業務効率化の進め方 と同じです。
「分類しても現場は記録しない」という反論にどこまで答えるか
ここまでの説明で「理屈は分かるが、うちの現場では無理だ」と感じた方もいるはずです。その反論のうち、最強の形はこうです。
「差異を4種類に分けるのは机上の空論だ。忙しい現場に『記録者と時刻を残せ』と言っても続かない。記録を残す暇があったら数え直したほうが早いし、そもそも人を増やさずに記録だけ増やせば、現場は裏で記録をさぼり、帳簿と現物の乖離は前より見えなくなるのではないか」
この反論は、私たちも半分は正しいと考えます。記録のための記録を増やしても、現場は回りません。実際の運用で私たちが推奨するのは、次の3点です。
- 記録は4項目・対象は1品目に絞る: 全商品・全件の記録は求めません。いつも差異が出る1品目だけ、日付・商品・数量・方向の4項目を1ヶ月残します。これなら伝票の隅に書く程度の手間で終わります。
- 記録の手段を例外フローに寄せる: サンプル出荷や廃棄など、正規フローを通らない移動にだけ記録手段を用意します。普段どおりの入出庫には何も足しません。負担を増やすのではなく、抜け道にだけ蓋をします。
- 1ヶ月で原因を特定して記録をやめる: 記録は恒久の運用ではなく、原因特定のための一時的な観測です。原因が分かれば記録はやめ、打ち手(単位統一や経路の変更)に移ります。終わりがあるから現場も協力できます。
在庫管理の目的は「記録を残すこと」ではなく、「差異を生まない経路を作ること」です。この使い方であれば、上記の懸念は現実のものになりません。
まとめ
- 差異は4種類。タイミング・単位・記録漏れ・数え間違いで、打ち手が違います
- 最も多く見過ごされるのは、正規フローを通らない移動の記録漏れです
- 棚卸の頻度を上げても発見が早まるだけで、発生は減りません
- 単位の混在はデータ定義の問題です。整理せずに自動化すると混乱ごと引き継がれます
まず差異の記録を、日付・商品・数量・方向の4項目で残すところから始めてください。
参考文献・出典
- 令和8年版 情報通信白書|生成AIの業務利用状況 – 総務省, 2026年7月
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