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schedule 読了目安: 7分 技術・仕組み

紙の業務が残り続ける理由|ペーパーレスが進まない3つの壁

smart_toy AIによる3行まとめ
ペーパーレスの壁は3種類ある 制度・取引先の壁は線引きで対応 業務設計を変え、並行保存をやめる
list 目次

要点:ペーパーレスが止まるのは意識の問題ではなく、制度・取引先・業務設計の3つの壁が別々に存在するためです。壁ごとの越え方と着手順序を整理しました。

  • この記事の結論
  • 「意識が低いから」ではありません
  • こんな状態で止まっていませんか

対象読者:エンジニア・開発責任者・技術検討担当者

この記事の結論

  • ペーパーレスが止まる原因は3つに分かれます。制度の壁・取引先の壁・業務設計の壁です
  • この3つは越え方がまったく違うのに、同じ「意識改革」で片付けられがちです
  • 越えられるのは3番目だけ。まず3番目に集中し、1番目と2番目は残す判断をするほうが早く進みます

ペーパーレスが進まない3つの壁を示す図解。

ペーパーレスの進展には制度、取引先、業務設計の3つの壁が存在し、特に業務設計に集中することが重要です。


※ この記事は 生産性が上がらない本当の理由 で挙げた3つの論点のうち、「測っていない業務がある」を掘り下げたものです。

「意識が低いから」ではありません

紙が減らない理由として、しばしば現場の意識が挙げられます。慣れているから。紙のほうが安心だから。

しかし実際に現場に入ると、紙を使い続けている業務にはそれぞれ違う理由があります。そして理由が違えば、打ち手も違います。

理由を区別せずに一律の号令をかけると、越えられる壁も越えられない壁も同じ扱いになります。結果、越えられない壁の存在が「取り組みが不十分」という評価にすり替わり、担当者だけが疲れていきます。


こんな状態で止まっていませんか

  • 社内システムは電子化したのに、印刷して押印し、それをスキャンして保存している
  • 一部の書類だけ紙が残り、その保管のためにキャビネットを維持している
  • 電子化したが、念のため紙も並行して保存している
  • 「電子でよい」と決めたのに、慣例で紙が回っている
  • 取引先から紙で届くため、こちらだけ電子化しても効果が出ない

3つ目は最も費用がかさむ状態です。電子化のコストと紙のコストを両方払っています。


3つの壁

壁1:制度の壁

法令や契約で、紙での保存や原本性が求められている書類。

越え方:越えられません。要件を確認し、該当する書類は明確に対象外とするのが正しい対応です。

ここを曖昧にしておくと、担当者は「本当は電子でよいのか」を判断できず、念のため紙を残します。3つ目の症状(並行保存)は、ここが原因で起きます。

やるべきこと:紙が必要な書類の一覧を作り、公表する。それ以外は電子でよいと明言する。

壁2:取引先の壁

相手が紙で送ってくる、紙での提出を求めてくる。

越え方:自社だけでは越えられません。ただし、受け取った紙をその後どう扱うかは自社で決められます。

紙で届いたものを紙のまま回覧するのか、入口で電子化して以降は電子で回すのか。ここは交渉不要で変えられる領域です。

壁3:業務設計の壁

紙である必然性がないのに、紙で回っている業務。承認のために回覧する、確認印のために持ち回る、記録のために印刷する。

承認の回覧がどれだけ待ち時間を生んでいるかは 残業が減らない構造的な原因 の発生源Cで扱っています。

越え方:ここだけが自社の判断で完全に越えられます。 そして、多くの場合いちばん量が多い領域でもあります。


壁ごとの扱い

表1: 壁ごとの扱い(壁1:制度・壁2:取引先・壁3:業務設計)
壁1:制度壁2:取引先壁3:業務設計
自社だけで越えられるか✕部分的に○
正しい対応対象外と明記する入口で電子化する設計を変える
着手の優先度最初(線引きのため)3番目2番目(本命)
放置したときの症状念のための並行保存効果が出ないという不満印刷とスキャンの往復

順序に注意してください。壁1を最初に片付けるのは、越えるためではなく線を引くためです。 ここが決まらないと、壁3に集中できません。


壁3を越える手順

手順1:なぜ印刷しているのかを聞く

「その紙、何のために印刷していますか」と1件ずつ聞きます。返ってくる答えは、だいたい次の4つに収まります。

表2: 手順1:なぜ印刷しているのかを聞く(答え・実際の要件・対応)
答え実際の要件対応
承認をもらうため承認の記録が残ればよい電子承認に置き換え
確認しやすいから画面が見づらい表示の改善で解決
記録として残すため検索できる保存が必要保存先の整備
昔からそうだから要件なしやめる

4つ目が想定より多く見つかります。

手順2:一度だけ、止めてみる

いきなり廃止すると反対が出ます。「1ヶ月だけ紙をやめて、困ったら戻す」と提案してください。可逆であれば合意は取りやすく、そして戻す判断が必要になるケースはそう多くありません。

手順3:並行保存をやめる

電子と紙の両方を残している状態が最も高コストです。どちらが正本かを決めてください。 決めないまま両方残すのは、判断の先送りであり、費用は両方分かかり続けます。


電子化しただけでは、数字は動きません

総務省の令和8年版情報通信白書によると、日本企業で何らかの業務に生成AIを利用している割合は 86.4% に達しました。

一方、日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2025」では、2024年の日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル(5,720円)で OECD加盟38カ国中28位、実質上昇率は マイナス0.6% です。

紙を電子に置き換えただけでは、この数字は動きません。承認が5段階のまま電子になれば、5段階の電子承認になるだけだからです。速くはなりますが、待ち時間の構造は変わりません。

ペーパーレスの効果は、媒体の変更ではなく、そのタイミングで段階そのものを減らせるかどうかで決まります。移行は、設計を見直せる数少ない機会です。


よくある質問(FAQ)

Q1:どの書類が法令上、紙で必要なのか分かりません。

A:まずその一覧を作ることが最初の仕事です。分からないまま進めると、現場は全件について「念のため」の判断をします。分からない状態そのものが、並行保存を生んでいます。 該当が少数であれば、それを明示するだけで残りが一気に進みます。

Q2:取引先が紙なので、うちだけ電子化しても意味がありません。

A:相手からの入力形式は変えられなくても、受け取った後の社内での扱いは変えられます。 入口で電子化し、以降は電子で回す。回覧・保管・検索にかかる時間は、それだけで減ります。

Q3:電子化したのに、結局印刷されています。

A:画面で確認しづらいことが理由であるケースが多い領域です。印刷している人に「画面のどこが見づらいか」を聞いてください。 意識ではなく表示の問題であれば、改善すれば印刷は止まります。


「紙のほうが早くて確実だ」という反論にどこまで答えるか

ここまでの説明で「電子化より紙のほうが現場は速い」と感じた方もいるはずです。その反論のうち、最強の形はこうです。

「紙は電源も通信も要らず、誰でも扱えて、サイン1つで承認が終わる。電子承認はログインと操作が必要で、かえって手間が増える場面も多い。『段階を減らす』と言うが、承認段階にはそれなりの理由があって残っている。紙を残すのは遅れているからではなく、現場が合理的に選んだ結果ではないか」

この反論は、私たちも半分は正しいと考えます。紙のほうが速い業務は確かに存在します。実際の運用で私たちが推奨するのは、次の3点です。

  1. 対象は壁3の業務に限定し、紙が速い業務は残す: すべてを電子化しません。本文の表で示したとおり、本命は業務設計の壁だけです。紙のほうが速い確認作業は、無理に変えない判断も正解です。
  2. 並行保存だけは先に解消する: 電子と紙の両方を残す状態が最も高コストです。どちらが正本かを決めるだけでも、二重の手間は消えます。媒体の変更より先に、正本の決定を済ませます。
  3. 段階の削減は「1ヶ月だけ試す」で合意する: 承認段階の削減は恒久変更として提案せず、可逆の試行として提案します。本文の手順2で述べたとおり、困ったら戻せる条件なら合意は取りやすく、実際に戻す必要が出るケースは多くありません。

ペーパーレスの目的は「紙をゼロにすること」ではなく、「印刷とスキャンの往復や並行保存の二重コストをなくすこと」です。この線引きであれば、上記の懸念は現実のものになりません。


まとめ

  1. 壁は3つ。制度・取引先・業務設計で、越え方がまったく違います
  2. 制度の壁は越えるのではなく、対象外として線を引くのが正しい対応です
  3. 自社だけで越えられるのは業務設計の壁だけ。ここが本命です
  4. 媒体を変えるだけでは待ち時間は減りません。段階そのものを減らせるかが分かれ目です

まず、いま印刷している書類を1つ選び、「何のために印刷しているか」を聞いてみてください。


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参考文献・出典


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井上 裕太
Author

井上 裕太

代表取締役

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紙で運用されていた申請・承認フローの電子化を複数の現場で担当し、途中で止まる要因を実務で確認してきた。AIGENT ACE株式会社代表取締役。

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