要点:電気工事士の将来性を、需要を支える構造とAI・自動化の影響の両面から分解して解説。AIで仕事がなくなる/なくならないという断定ではなく、業務ごとに影響の大小を整理し、若手が積むべき経験を観測事実をもとに紹介します。
- この記事の結論
- 「将来性はある?」に単純に答えられない理由
- 需要を支える構造:なぜ仕事が途切れにくいのか
対象読者:設備工事会社の採用担当者・経営者
この記事の結論
電気工事士の将来性を考えるとき、鍵になるのは「需要がどこから来るか」と「AIがどこまで代替するか」の2点です。前者については、設備は築造後も点検・保全・更新という需要を生み続ける構造を持っており、この構造は当面変わらないと考えられます。後者については、「AIで電気工事士の仕事がなくなる/なくならない」と断定できる材料は現時点ではなく、業務を分解すれば、AIの影響が大きい工程と小さい工程がはっきり分かれます。つまり将来性の有無を一括りに語るのは不正確で、業務のどこを担うかで回答が変わる問題です。本事業の観測でも、電気工事の周辺サービスへ多角化する会社や、電気と制御の境界領域に入る会社が見られており、「電気工事士」としての需要は形を変えながら存在し続けています。
「将来性はある?」に単純に答えられない理由
電気工事士の将来性を問う声には、主に2つの文脈があります。ひとつは建設業界全体の需要動向への懸念、もうひとつはAI・自動化による職業代替への懸念です。この2つは別の問題ですが、混同されると「AIに仕事を奪われるのでは」という漠然とした不安になりがちです。
正確に考えるには、問題を分けて扱う必要があります。
- 需要の側の問題: 電気工事の仕事はいつまで発生し続けるのか。どの分野が伸びるのか
- 代替の側の問題: 業務のどの部分がAI・自動化の影響を受け、どの部分が受けにくいのか
本記事ではこの2つをそれぞれ表に整理し、分解して見ていきます。
需要を支える構造:なぜ仕事が途切れにくいのか
電気工事の需要は「新規に設備を作る」ことだけではありません。むしろ設備というものは、一度建つとその後、長期にわたって点検・保全・更新の需要を生み続けます。これが他の職種と比べたときの大きな構造的特徴です。
| 構造 | 内容 | 電気工事士の仕事との接続 |
|---|---|---|
| 法定点検・保全 | 電気設備は使用を続ける限り、点検や保守が需要として発生し続ける | 既設設備の点検・修理・保守作業 |
| 経年更新 | 築年数が経った建物では、設備の更新(リニューアル)が必要になる | 改修工事・設備更新工事 |
| 脱炭素・エネルギー関連 | 再エネ導入・省エネ改修・EV充電設備など、電気を扱う新しい設備需要 | 新設機器の電源確保・配線工事 |
| 情報・セキュリティ関連 | LAN・防犯カメラ・入退室管理など、電気工事の周辺に広がる設備需要 | 周辺サービスの設置・配線工事 |
| 人手不足の構造 | 設備工事業界は担い手不足が続いており、技術者の確保が難しい状況が報告されている | 技術者一人あたりの仕事が減りにくい環境 |
特に最初の2行が重要です。新築が減少しても、既にある設備の点検と更新の需要は消えません。「建設」という言葉から新規工事だけをイメージすると将来性を不安に感じますが、電気工事士の仕事の相当部分は既設設備の保全・更新側にあります。
なお、建設業界の生産性向上については国としても取り組みが進められており、たとえば国土交通省は建設DXを推進する「i-Construction 2.0」を公表しています(出典:文末)。これは需要の消滅ではなく「仕事のやり方の変化」を示すものと受け止めるのが適切です。
AIの影響:業務を分解して見る

次に「AIに代替されるのでは」という問いです。ここで断定を避けるべき理由は、AIの進展速度や適用範囲を誰も正確に予測できていないからです。代わりに、電気工事士の業務を工程ごとに分解し、「AI・自動化の影響が大きいと考えられる工程」と「小さいと考えられる工程」を整理します。
| 工程 | 内容 | AI・自動化の影響 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 図面・設計補助 | 配線図の作成・チェック | 影響が大きい可能性 | パターン化された設計作業は生成AIの適用範囲に入りやすい |
| 器具選定・お見積り作成 | 資料集め・数量計算・お見積り書作成 | 影響が大きい可能性 | ルーチン化された情報処理は自動化しやすい |
| 現場での配線・接続作業 | 手を動かす実際の工事 | 影響が小さい | 不定形の空間で、対象ごとに状態が異なる作業。汎用ロボットによる代替は現時点で一般的でない |
| 現場判断・トラブル対応 | 不具合の原因推定・臨機応変な対応 | 影響が小さい | 現地の状況を見て安全を確保しながら判断する業務。物理環境への依存度が高い |
| 法定点検・保安業務 | 規程に基づく点検・報告 | 影響は分割的 | 集計・報告部分は効率化が進む一方、現地での点検実施は人的業務が残る |
| 監督・管理 | 安全管理・工程管理・指導 | 影響が小さい | 対人業務と現場責任を伴うため、技術者側の役割として残りやすい |
この表から読み取れるのは、「電気工事士の仕事」をひとまとめにしてAIと比べること自体が不適切だという点です。机上学習・情報処理系の工程と、現場の物理作業・判断系の工程では、AIとの関係が異なります。仮に前者の効率化が進んだとしても、それは「仕事がなくなる」ことを直接意味しません。作図や見積りが速くなれば、技術者は現場業務と監督業務に時間を使う形に仕事の中身が移る可能性があり、この移行がどう進むかは今後の観察事項です。
観測事実:現場で起きている変化
私たちが関東の工場設備会社156社を観測した限りでは、次のような会社が見られました。※会社の特定を避けるため一般化した表現にしています。
- EV充電設備・LAN・防犯カメラなど、電気工事の周辺サービスへ多角化する小規模会社があった
- 省力化機器や制御盤を扱い、電気と制御の境界領域に入る会社があった
また、電気工事士法に基づく免状制度は継続しており、制度上、低圧の一般用電気工作物の工事には電気工事士の免状が原則必要とされる枠組みは変わっていません。
これらの観測事実が示すのは、電気工事士の需要が「なくなる」方向ではなく「裾野が広がる・境界が動く」方向へ変化している現実です。電気というインフラを扱う限り、機器が新しくなっても、それを設置・保全する人間の仕事が丸ごと消える構造にはなっていません。変化するのは、求められる知識の幅(電気に加えて制御・通信・情報系)のほうです。
若手・これから目指す人が積むべきもの
将来性を「ある/ない」で待つのではなく、変化に強い立ち位置を積むという視点で整理します。
- 最初の国家資格(第二種)を入口にする: 制度は継続しており、免状は仕事の幅を決める基盤です。取得ルートの詳細は「第二種電気工事士とは?仕事内容・なり方・取得ルートを解説」で解説しています
- 第一種と上流工程へ積み上げる: 資格の上位区分と、監督・管理という対人・責任業務は、表の分類でも影響が小さい側に位置します。キャリアの積み上げ方そのものは「電気工事士のキャリアパスとは?ステップと選択肢を解説」にまとめています
- 電気の外の知識を足す: 制御・通信・情報系の知識は、観測された「境界領域に入る会社」が示すとおり、将来の仕事の幅を直接広げます
- 人手不足の構造を味方につける: 設備業界の担い手不足は続いているとされ、AI・自動化の影響を含めた業界構造の整理は「設備業界のAI活用と人手不足の限界」で解説しています
転職を通じて待遇や分野を選び直すという選択肢もあります。「電気工事士の転職を成功させるポイント」も参考にしてください。
よくある質問
Q. 電気工事士の仕事はAIに代替されますか?
「代替される/されない」と一括りに断定できる材料は現時点ではなく、業務ごとに見るのが適切です。図面作成やお見積り作成のような情報処理系の工程はAIの影響を受けやすい一方、現場での配線・接続作業や不具合対応、監督・管理のような物理環境と安全責任を伴う工程は代替が進みにくいと考えられます。電気工事士法に基づく免状制度も継続しており、制度の枠組み自体は残っています。仕事の中身が変化する可能性はあるため、机上工程だけでなく現場技術と監督能力を積むことが備えになります。
Q. 将来、伸びる分野はどこですか?
需要の構造表で示したとおり、既設設備の点検・保全・更新というベースの需要に加え、脱炭素関連(再エネ・省エネ改修・EV充電設備)や情報・セキュリティ関連(LAN・防犯カメラなど)の設備需要が電気工事の周辺に広がっています。実際、関東の工場設備会社156社の観測でも、こうした周辺サービスへ多角化する小規模会社や、省力化機器・制御監を扱い電気と制御の境界領域に入る会社が見られました。ただし個別分野の成長予測は断定できないため、「電気という土台の上で知識の幅を広げる」戦略が最も堅実といえます。
Q. 若手は何を積めばいいですか?
順番としては、(1) 第二種電気工事士を取得して現場に立ち、(2) 現場経験と並行して第一種などの上位区分と監督・管理能力を積み、(3) 制御・通信・情報系の知識を足して仕事の幅を広げる、という積み上げが変化への耐性を持つルートです。どの工程も「資格+実務経験+安全への意識」のセットで評価される点は変わりません。将来性を問うよりも、AIの影響が小さい側に位置する工程(現場作業・判断・監督)を手にできる立ち位置を作ることが、実質的な答えになります。
参考文献・出典
- 国土交通省 プレス発表「i-Construction 2.0」
- 電気工事士法に基づく免状制度・試験制度の最新情報は、国の公式案内を必ず確認してください
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