要点:「人手不足で受注できない」設備工事会社向けに、市場と人員の乖離を示す統計、断った案件の5分類記録、粗利ベースの機会損失のモデル計算、採用・外注・省力化投資の優先順位の決め方を出典と仮定を分けて解説します。
- この記事の結論
- Key Findings
- なぜ「仕事があるのに受けられない」のか
対象読者:設備工事会社の経営者・積算/見積担当者
この記事の結論
「人手不足で受注できない」状態の改善は、感覚で嘆くのではなく、断った案件を金額で記録し、粗利ベースの機会損失に換算することから始めます。統計上、設備8業種の完成工事高は2020年度の31,413,796百万円から2024年度の38,048,142百万円へ伸びている一方、従業者数は2023年度の1,342,468人から2024年度には1,274,197人へ減少しています。「仕事は増えているのに、受けられる総量は増やせない」構造は数字で確認できます。損失を数字にできて初めて、採用・外注・省力化投資のどれにいくら投じるべきかを比較できます。
Key Findings
- 完成工事高は2020年度から2024年度で+21.1%(AIGENT ACE計算値)、従業者数は同期間+5.3%・2023年度→2024年度は−5.1%(同)です
- 全国の求人倍率は配管工11.03倍、建築施工管理技術者8.62倍、電気工事士3.84倍、ビル施設管理1.03倍(令和7年度・job tag)です
- 受注できない理由は「現場不足(Capacity)」「資格不足」「納期」「粗利」「顧客条件」の5分類で記録します(既報フレームワーク)
- モデル計算では、現場代理人6名・月間引合13件(採算基準クリア)・平均受注単価2,500万円・粗利率22%の条件で月4件辞退すると、粗利機会損失は2,200万円/月、繁忙期7か月累計で1億5,400万円になります(試算例)
- 現場監督の1日10.5時間のうち非現場業務は約7時間(約67%)というモデル値(既報)があり、Capacity引き上げの源泉になります
なぜ「仕事があるのに受けられない」のか
設備工事会社の受注上限は、営業の受注力ではなく「現場を管理・施工できる物理的なCapacity」で決まります(既報)。制約は3つに分けられます。
- 現場代理人・主任技術者の配置制約: 建設業法上の専任技術者・主任技術者の配置義務により、1人が同時に担当できる現場数には物理的・法律的な上限があります。
- 協力会社の施工班枠: 繁忙期に配管工や電工の手配がつかず、請け負っても工期内に引き渡せないため辞退せざるを得ません。
- 事務・積算工数の逼迫: 見積りや積算が追いつかず、元請からのお見積り依頼の提出期限に間に合わないケースも、Capacity不足の一種です。
人を増やそうにも、労働市場は逼迫しています。令和7年度の全国求人倍率は配管工11.03倍、建築施工管理技術者8.62倍、電気工事士3.84倍(厚生労働省job tag)であり、「採用活動を止めないでも人が集まらない」水準の職種を含みます。さらに空調工事のように夏冬に需要が集中する業種では、繁忙期のパンクと閑散期の稼働低下が同時に起こります(既報)。炎天下の屋上作業や高温環境下のダクト工事では、職人1人あたりの施工進捗が春・秋の6割程度まで落ち込むという試算(既報・モデル値)もあり、繁忙期の実質Capacityは帳簿上の人数よりさらに小さくなります。
この状態を放置した場合の代償は「忙しさ」ではなく、断った案件が本来生み出すはずだった粗利です。次の章から、それを記録し、計算する手順を示します。
まず「断った金額」を記録する
感覚値の「人手不足で忙しい」を、記録可能な数値に変換します。過去6か月の問い合わせ・お見積り依頼の台帳から、採算・与信条件を満たしていたのに辞退した案件を抽出し、理由を次の5分類で記録します(既報の分類です)。
| 分類 | 典型的な状況 | 対策の方向 |
|---|---|---|
| 現場不足(Capacity) | 現場代理人・施工班の手配がつかない | 採用・外注・管理件数の引き上げ |
| 資格不足 | 監理技術者・有資格者が配置できない | 資格取得支援・外部パートナー設計 |
| 納期 | 工期内に消化できる体制がない | 工程の平準化・受注調整 |
| 粗利 | 採算基準を満たさない案件 | 単価見直し・原価削減 |
| 顧客条件 | 与信・契約条件が基準を外れる | 与信基準の明確化 |
理由を分類していないと、「営業力不足なのか現場不足なのか」が区別できません。本記事の主題である「人手不足で受注できない」は、この5分類のうち「現場不足」「資格不足」「納期」に該当する案件の金額です。「粗利」「顧客条件」で断った案件は、戦略的な選択の結果であり、機会損失として数え方を分けます。
機会損失の計算式(4ステップ)
計算フレームワークの詳細とつまずきポイントは既報に譲り、ここでは式を要約します。
- 月間保有Capacity(件) = 稼働可能な専任技術者(現場代理人)数 × 1人あたり同時管理可能件数
- Capacity起因の辞退件数 = 受注可能水準の引合件数 − 月間保有Capacity
- 売上機会損失額 = 辞退件数 × 平均受注単価
- 粗利機会損失額 = 売上機会損失額 × 自社の平均限界利益率(粗利率)
モデル計算: 中堅空調・衛生設備会社の試算例(仮定を明示)
以下はモデル計算であり、実績値ではありません(既報の試算例と同じ仮定を使います)。
- 体制: 現場代理人(施工管理技士)6名、協力会社施工班12班
- 1人あたり管理可能件数: 1.5件/月(書類作成や現場巡視の負荷を考慮した上限の仮定)
- 月間引合: 平均16件のうち、粗利・与信基準をクリアした案件13件
- 平均受注単価: 2,500万円、平均限界利益率(粗利率): 22%
- 繁忙期: 9月〜3月の7か月間
計算は次の通りです。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 月間保有Capacity | 6名 × 1.5件 | 9件/月 |
| 月間辞退件数 | 13件 − 9件 | 4件/月 |
| 売上機会損失 | 4件 × 2,500万円 | 1億円/月 |
| 粗利機会損失 | 1億円 × 22% | 2,200万円/月 |
| 繁忙期7か月累計(粗利) | 2,200万円 × 7か月 | 1億5,400万円 |
ここで、書類作成・写真整理・報告書作成の負荷を減らして1人あたりの管理可能件数が1.5件から2.0件に上がった場合を試算すると、月間Capacityは12件(+3件)になり、獲得可能な粗利は3件 × 2,500万円 × 22% × 7か月 = 1億1,550万円/年(試算)です。月額数十万円単位のツール導入や事務分業のコストと比較するために使う数字であり、自動的に実現する値ではありません。
季節偏重・地域差がある会社の読み替え
試算例は月ごとの定常状態を想定していますが、実際の辞退は月によって偏ります。季節偏重のある業種では、辞退件数の記録を月別に残すのが重要です。繁忙期に集中して断っているのか、通年で断っているのかで、対策の主役(工程の平準化なのか、体制増強なのか)が変わるためです。
打ち手の方向としては、夏冬の突発需要だけを追わず、春・秋の閑散期に法定点検や予防保全を提案し、更新需要を計画的に前倒しして受注する再設計が既報で示されています。繁忙期のパニックを減らしつつ、通年の粗利を安定化させる方向です。
地域差については、都道府県別の築年数・業者数・求人倍率から算出した需要逼迫指数(既報)があり、自社の営業地域の逼迫度を確認してから機会損失の改善目標を置くと、地域の市場構造とすり合います。指数は相対値であり、絶対的な受注可能量を約束するものではありません。
数字が出た後の意思決定: 採用・外注・省力化の優先順位
損失額が分かったら、Capacity拡大の手段ごとに「費用vs粗利回収」を同じ表に並べます。
| 手段 | 費用の発生の仕方 | 粗利に効く時期 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 採用 | 固定的(給与+社保+教育費が続く) | 着手まで時間がかかる | 求人倍率が高い職種では採用の長期化が前提 |
| 外注 | 案件ごとに発生(変動に近い) | 早い | 技能蓄積は原則、相手側に残る |
| 業務の省力化 | ツール・体制の設計費用 | 中期 | 効果は業務設計と確認者の負担次第で変わる |
採用と外注を並べるときの確認軸は、既報で整理された5つの観点がそのまま使えます。
| 軸 | 自社採用 | 外注(協力会社) |
|---|---|---|
| 費用の発生 | 採用費+給与+教育費が続く(固定に近い) | 案件ごとに発生(変動に近い) |
| 技能の蓄積 | 社内に残る(施工記録・資格・判断基準) | 原則、相手側に残る |
| Capacityの伸縮 | 増減に時間がかかる | 案件単位で調整しやすい |
| 品質と確認 | 確認者を社内に置ける | 分界と確認の設計が必須 |
| 次の案件への接続 | お見積り・施工の学習が自社データになる | 学習は相手側に蓄積される |
採用と外注の比較は「費用の安い方を選ぶ問題」ではなく、「成長を続けるための学習がどちらに残るか」が最大の差です(既報)。省力化の源泉については、現場監督の1日10.5時間のうち非現場業務が約7時間(約67%)というモデル値(既報)が、Capacityの余白がどこにあるかを示します。実測シートで自社の負荷配分を測った上で、削れる工程と人が残す確認を分けるのが順序です。
なお、Capacityを超えて無理に受注を増やすことは推奨しません。既報の通り、Capacity超過の受注は安全管理の不徹底、事故、工期遅延のペナルティ、職人の離職を通じて、得た粗利以上の損失を招きます。増やせる受注量は、記録と試算に基づいて決めるのが原則です。
よくある質問
Q. 人手不足なのに仕事を断っている、この状態は問題ですか?
需要と従業者の乖離は統計上確認できる構造であり、状態そのものは珍しくありません。問題になるのは、断った案件が粗利でいくらかを把握していないまま対策を決めることです。「現場不足」「資格不足」「納期」で断った案件の金額を記録し、対策投資と比較できる形にしてください。逆に引合自体が少ない場合は、Capacity対策ではなく受注活動の問題として扱います。
Q. 機会損失の数字は実績値ですか?
いいえ。モデル計算(試算例)です。お見積りを出さずに辞退した案件の正確な金額は、時点を戻して確認する方法がありません。平均受注単価を使った概算は経営判断の材料として十分ですが、実績値と混同しないでください。
Q. 断った案件の金額が正確にわからない場合はどうすればよいですか?
過去1〜2年の同規模工事の平均受注単価を当てはめて概算します。重要なのは1円単位の厳密さではなく、「年間で数千万円単位の粗利を逃している可能性がある」という事実を組織で共有することです。
Q. 採用せずに受注量を増やす方法はありますか?
協力会社ネットワークの設計・業務の省力化・案件選択の見直しがあります。ただし外注に移した範囲の技能は原則として相手側に残るため、粗利と技能蓄積を案件単位で記録しながら判断してください。省力化で管理可能件数を上げるアプローチは、試算例の「1.5件→2.0件」の部分に相当します。
調査の方法と限界
本記事は、当サイトが既に公開している統計分析記事と試算モデルを統合し、「人手不足で受注できない」という経営課題の順序(構造の確認→記録→数値化→投資判断)に再構成して書いています。新しい実測調査は行っていません。完成工事高・従業者数は建設工事施工統計調査の公式原数値、増減率はAIGENT ACEが原数値から算出した計算値、機会損失の金額は仮定を明示したモデル計算です。
限界:
- 機会損失の金額は、体制(技術者数・管理可能件数)・平均受注単価・粗利率の仮定を自社値に置き換えない限り、自社の損失を表しません
- 「断った案件数」の公的統計は存在せず、業界全体の機会損失を実測した値ではありません
- 完成工事高・従業者数(建設工事施工統計調査・年度別)と求人倍率(令和7年度・job tag)は出典と集計時点が異なり、因果関係を示すものではありません
参考文献・出典
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