要点:設備工事の利益率には業種別の公表値がありません。元請比率と1人あたり完成工事高の構造値、原価構造分解の4ステップ、賃上げと転嫁率46.8%での粗利圧縮モデル計算を使い、利益率を自社値として計算する方法を解説します。
- この記事の結論
- Key Findings
- なぜ「設備工事の利益率の平均」は断定できないのか
対象読者:設備工事会社の経営者・積算/見積担当者
この記事の結論
「設備工事の利益率はいくらですか?」という問いに、公的統計は直接の数値を用意していません。当サイトが加工・確認している建設工事施工統計調査(第2表)の公表項目は、完成工事高、元請・下請別の受注額、従業者数、付加価値額、減価償却費などであり、営業利益・経常利益にあたる業種別の値は含まれていません。したがって利益率は「探して当てはめる値」ではなく「自社の原価構造分解から作る値」と位置づけるのが正確です。本記事では、代わりのベンチマークとして使える2024年度の構造値(元請比率・1人あたり完成工事高)、粗利率の目安(ビルメン10〜20%)、賃上げと転嫁率46.8%から粗利がどう圧縮されるかのモデル計算を、出典と仮定を分けて示します。
Key Findings
- 設備工事の業種別利益率の「業界平均」を出典付きで示せる一次統計値は、当サイトの確認範囲には存在しません
- 代わりの構造値として、2024年度全国の元請比率はその他の設備工事業76.9%から消防施設工事業25.7%まで約51ポイントの業種差があります
- 1人あたり完成工事高はその他の設備工事業44,253,670円が最も高く、さく井工事業24,236,299円が最も低い(2024年度・AIGENT ACE計算値)
- 粗利率の目安として使える値は、既報のビルメン構成比率(粗利率10〜20%)と、試算例の仮定(22%)です
- 労務費の価格転嫁率は約46.8%と、原材料費(約60〜70%)より低い水準にとどまっています(中小企業庁フォローアップ調査)
- モデル計算では、賃上げ年5%を転嫁率46.8%で吸収した場合、粗利は3年累計で約335万円減(粗利率にして約3.8ポイント減)となります
なぜ「設備工事の利益率の平均」は断定できないのか
「設備工事利益率」で検索すると「業界平均は〇%」という断片的な情報に当たりますが、次の3つの理由から、出典の確認なしに当てはめることは推奨しません。
- 公的統計が利益額を公表しない: 当サイトが加工している建設工事施工統計調査(第2表・全国・業種別)の公表項目は、完成工事高、元請・下請別の受注額、従業者数、付加価値額、減価償却費などです。営業利益・経常利益にあたる業種別の値は項目として存在せず、公式統計から「設備工事の利益率の平均」を作ることはできません。
- 「利益率」の定義が混ざっている: 粗利率、営業利益率、経常利益率では分母も分子も異なります。「平均粗利率」と「平均営業利益率」を同じ「利益率」として並べた比較は、比較として成立しません。
- 出典のない数値が循環している: 出典年・業種範囲・調査母集団が不明な「業界平均」は、出どころをたどれないため、経営判断の根拠として使えません。当サイトのリポジトリに出典付きで存在しない値は、本記事でも採用していません。
この制約の下で、現実的な進め方は「公的統計の構造値で自社の受注構造を確認する」→「自社の原価構造分解で粗利率を計算する」→「賃上げ・転嫁のシナリオで粗利の変化を試算する」の3段階です。
代わりに使える構造値: 元請比率と1人あたり完成工事高(2024年度)
元請比率は「自社が直接元請として価格を決める仕事の割合」、1人あたり完成工事高は「従業者1人が年間に手がける工事高」です。いずれも利益率そのものではありませんが、業種間の受注構造と生産性の差を見る代替指標になります。以下は建設工事施工統計調査(2024年度・全国)に基づくAIGENT ACE計算値です。
| 業種 | 完成工事高(百万円) | 元請比率 | 下請比率 | 1人あたり完成工事高 |
|---|---|---|---|---|
| その他の設備工事業 | 419,038 | 76.9% | 23.1% | 44,253,670円 |
| 機械器具設置工事業 | 9,454,442 | 66.2% | 33.8% | 31,371,023円 |
| 電気通信工事業 | 3,509,942 | 59.8% | 40.2% | 26,742,008円 |
| 電気工事業 | 11,962,276 | 48.7% | 51.3% | 29,982,821円 |
| 管工事業 | 10,315,728 | 43.3% | 56.7% | 29,954,492円 |
| さく井工事業 | 170,260 | 42.7% | 57.3% | 24,236,299円 |
| 熱絶縁工事業 | 1,712,265 | 28.3% | 71.7% | 26,944,012円 |
| 消防施設工事業 | 504,191 | 25.7% | 74.3% | 27,739,382円 |
(元請比率の高い順・2024年度・全国)
読み方には注意が必要です。元請比率が高いほど利益率が高い、という関係は成立しません(既報の通り)。下請比率が高い業種では、元請から請けた工事事業の原価管理がそのまま粗利を決めるため、案件単位の原価構造分解の重要度が上がります。1人あたり完成工事高も工事単価・工事構成・外注範囲の影響を受けるため、生産性の単独指標として扱いません。自社の業種の行を確認し、「どちらの構造で粗利が決まっているか」の前提を揃えるのに使ってください。
原価構造分解: 利益率を「自社値」にする4ステップ
既報のビルメン原価構造で示した4ステップは、工事主体の設備会社の案件単位にもそのまま使えます。
- 収入の分解: 案件の受注額を、材料費・労務費・外注費・直接経費の内訳に分けます。材工共(材料費と施工費の合算)のままだと、どの原価が粗利を圧縮しているか特定できません。
- 原価の配賦: 社内技術者の人件費(給与+社保+経費)を案件の担当時間で配賦します。労務費には法定福利費(事業主負担分約15.5%)の計上漏れがないか確認します。
- 粗利の算出: 案件受注額 −(材料費+労務費+外注費+直接経費)= 案件粗利。計算式を案件間で同一にして並べることが前提です。
- 年次の感度分析: 賃上げ率・転嫁率・効率化率を変数として、3年後の粗利を試算します。賃上げを吸収するために転嫁か効率化のどちらにいくら必要かを、事前に数えられます。
原価の中身の「目安」が必要な場合は、既報のビルメン構成比率(直接人件費60〜75%・外注費・法定点検費15〜25%・資材・消耗品費3〜5%・粗利率10〜20%)が一般論の目安として利用できます。ただし工事主体の設備会社は原価の構成がこれと一致しないため、あくまで隣接領域の目安です。同じく既報では、月額100万円の管理委託物件で人件費が年5%上がり委託料が据え置きの場合、粗利率が20%から17%へ3ポイント低下する試算を示しています。
モデル計算: 賃上げと転嫁率46.8%で粗利はどう動くか
以下はモデル計算であり、実績値ではありません。仮定は次の通りです。
- 完成工事高: 年1億円
- 粗利率: 20%(粗利2,000万円・原価8,000万円) — 既報のビルメン粗利率の目安10〜20%の上限に合わせた仮定
- 原価のうち労務費: 40%(4,000万円) — 仮定
- 賃上げ率: 年5% — 既報の試算例と同じ水準
- 転嫁率: 46.8% — 中小企業庁フォローアップ調査の労務費転嫁率(既報)
なお、分母が異なる点には注意してください。ここでの「原価のうち労務費40%」は完成工事原価のうちの労務費の割合です。保守委託のように常駐人件費が収入の大半を占めるビジネスでは、収入に対する人件費比率は7割前後になるケースがあり(労務費上昇影響シミュレーターの試算例では委託料120万円に対して人件費90万円=75%という例を扱っています)。どちらが正しいという話ではなく、比較するときは分母を自社の計算条件で揃えることが重要です。
| 年 | 労務費の増加(累計) | 転嫁で回収(累計) | 未回収(累計) | 粗利(額) | 粗利の減少率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 200万円 | 93.6万円 | 106.4万円 | 1,893.6万円 | ▲5.3% |
| 2年目 | 410万円 | 191.9万円 | 218.1万円 | 1,781.9万円 | ▲10.9% |
| 3年目 | 630.5万円 | 295.1万円 | 335.4万円 | 1,664.6万円 | ▲16.8% |
粗利率に直すと、売上が転嫁分だけ伸びる場合でも20.0%から約16.2%へ約3.8ポイント低下する計算です。転嫁率を100%にできれば粗利額は維持され、逆に転嫁ゼロなら3年で未回収630.5万円(粗利の約31.5%相当)になります。このモデルが示すのは、転嫁率が100%を切る限り、賃上げは毎年粗利を削り続けるということです。未回収分を埋める手段は、(a) 価格転嫁率を上げる、(b) 労務費そのものを減らす(業務の効率化・施工Capacityの引き上げ)、(c) 粗利率の高い案件構成に変える、の3つに整理できます。
なお、粗利率22%という数字は既報の機会損失の試算例で使われた仮定でもあります。実績値ではないため、自社の粗利率の代わりにそのまま使うのではなく、原価構造分解の結果と突き合わせてください。
利益率改善の2方向: 価格転嫁と原価側の効率化
転嫁側: 公正取引委員会・国土交通省の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が存在する一方、労務費の転嫁率は約46.8%にとどまり、原材料費(約60〜70%)より遅れています。交渉の根拠になるのは感覚論ではなく、公共工事設計労務単価の推移(直近5年で約15〜20%上昇)と自社の実績原価の突合です。電気工事・配管工事それぞれの単価表見直し手順は既報で解説しています。
効率化側: 現場監督の1日10.5時間のうち非現場業務が約7時間(約67%)というモデル値(既報)は、労務費と施工Capacityの両方に効く改善余地の所在を示します。Capacityが上がると粗利率の高い案件を選んで受注できるようになるため、利益率改善と機会損失の削減が同時に進みます。
前提としての記録: 粗利の計算式を案件間で同一にして並べる案件単位の記録(既報)が整っていないと、転嫁も効率化も効果測定できません。改善の前に記録の土台を整える順番が失敗しにくくなっています。
よくある質問
Q. 設備工事の利益率の業界平均はいくらですか?
出典付きで示せる業種別の一次統計値が存在しないため、本記事では提示していません。「業界平均〇%」という情報に当たった場合は、出典年・業種範囲・粗利か純利益かの定義・調査母集団を必ず確認してください。
Q. 粗利率と利益率は何が違いますか?
粗利率は「売上−原価」を売上で割った率です。営業利益率はそこから販管費(本社経費・営業経費など)をさらに差し引いた値を売上で割った率であり、工事現場の採算を議論するときは粗利率、会社全体の儲かりを議論するときは営業利益率以下を見ます。定義が混ざった比較は誤読のもとになります。
Q. ビルメンの粗利率10〜20%という目安は自社にも当てはまりますか?
当てはまる保証はありません。既報の構成比率は一般論の目安であり、契約形態(常用型・請負型)・人員配置・外注範囲で構成は変わります。先に自社の物件別・案件別の実績原価を計算してください。
Q. 利益率を上げるには値上げと効率化、どちらから始めるべきですか?
物件ごと・案件ごとに判断します。付加価値を評価されている案件では転嫁を、価格感が厳しい案件では効率化を優先する、という既報の判断軸がそのまま使えます。すべて一律に転嫁を狙うと解約や受注機会の損失が上がり、すべて効率化で押し込むと品質と離職が代償になります。
調査の方法と限界
本記事は、当サイトが既に公開している調査記事と、公式統計の加工データ(建設工事施工統計調査・AIGENT ACE計算列)を再構成して書いています。新しい統計取得・アンケート調査は行っていません。本文の数値は、(1) 公的統計に基づく公式原数値、(2) AIGENT ACEが原数値から算出した計算値、(3) 仮定を置いたモデル計算、(4) 一般論としての目安、の4層に分けて記載しています。
限界:
- 業種別の利益率(粗利率・営業利益率)の一次統計値を提示できないため、「自社の利益率が業界のどの位置にあるか」はこの記事だけでは判断できません
- モデル計算の仮定(粗利率20%・労務費比率40%・賃上げ年5%・転嫁率46.8%)は、業種・工事構成・会社規模で大きく変わります。自社の数値に置き換えずに外挿しないでください
- 引用した統計・調査は公表時点・集計定義が異なります(完成工事高・元請比率は2024年度、転嫁率は中小企業庁調査の実施時点の値)
参考文献・出典
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