要点:原価の大半が人件費とされるビルメン事業の採算を、管理費・人件費・外注費・粗利に分解して計算する手順。1物件あたりの粗利を算出する式、賃上げが粗利を圧縮する計算例、価格転嫁と効率化の判断基準を解説します。
- この記事の結論
- 課題:委託料は据え置き、人件費は上がり続ける
- 仕組み・手順:物件別の採算を数える4ステップ
対象読者:設備工事会社の経営者・積算/見積担当者

この記事の結論
ビルメン事業の採算改善は「粗利を見る」だけでは進みません。原価の中身(自社人件費・外注費・消耗品費)を物件ごとに分解し、賃上げと委託料の動きが利益をどう圧縮するかを数値で把握してから、価格転嫁と業務効率化のどちらで対処するかを決めるのが正順です。
ビルメン原価構造の標準内訳比率と改善余地
| 原価構成要素 | 一般的なビルメン構成比率 | 主な内容・コスト要因 | 仕組み化による改善アプローチ |
|---|---|---|---|
| 直接人件費 | 60%〜75% | 常駐技術員・清掃スタッフ・警備員給与 | 巡回化・複数物件管理による稼働平準化 |
| 外注費・法定点検費 | 15%〜25% | エレベーター・消防・受変電設備等の専門外注 | 外注契約の見直しと自社内製化範囲の拡大 |
| 資材・消耗品費 | 3%〜5% | 洗剤・フィルター・交換部材・管球類 | まとめ購買・標準品選定による調達単価圧縮 |
| 粗利益率 | 10%〜20% | 受託管理による純粋な利益分 | 付加価値修繕提案の積み上げで25%以上へ改善 |
課題:委託料は据え置き、人件費は上がり続ける
ビルメン業界では、原価の7割前後が人件費・外注費(人に依存する費用)であるとされることが多い領域です(一般論・目安。会社により構成は異なります)。そこに次の圧力が同時にかかります。
圧縮される利益の構造
- 賃上げ圧力: 有資格者(電験三種、ビル管、消防設備点検資格者等)の給与水準は上昇気味で、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などの公的統計でも建設関連・設備関連職種の賃金水準は上位域に位置づけられる傾向が指摘されます。人件費は毎年上がる前提で見なければなりません。
- 委託料の下押し: オーナー側の委託料の見直しは、値下げまたは据え置きが多い。賃上げを自動的に転嫁できる契約は少数です。
- 固定費としての人員: 常用型の管理では、人員を配置した瞬間に固定費が発生します。粗いお見積りで請けた物件は、契約期間の間ずっと粗利を削り続けます。
この構造を数字で見ていない会社では、「忙しいのに利益が残らない」状態の原因が、物件単位で特定できません。
仕組み・手順:物件別の採算を数える4ステップ
- 収入の分解: 物件ごとの月額委託料を、管理費(人件費相当)、維持清掃費、法定点検費などの内訳に分けます。包含範囲(追加作業は別途か、含みか)を契約書レベルで確認します。
- 原価の配賦: 常駐・巡回の各人員の人件費(給与+社保+経費)を、担当時間・担当物件数で配賦します。外注(清掃・設備メンテ・警備)は請負型の月額として計上します。
- 粗利の算出: 月額委託料 −(配賦後人件費+外注費+消耗品・諸経費)= 物件あたり粗利。さらに「1人管理物件数」を掛け合わせると、1人あたりの粗利創出力が見えます。
- 年次の感度分析: 賃上げ率・転嫁率・効率化率を変数として、3年後の粗利を試算します。「賃上げ5%を毎年吸収するには、転嫁か効率化がいくら必要か」を事前に数えられます。
この分解は、「ビルメンの常用型・請負型はどう使い分ける?契約形態別の採算管理」の契約設計と、「1人管理物件数を上げるには?」のCapacity改善と直結します。
賃上げを吸収する手段は、大きく「転嫁」と「効率化」の2つです。どちらで対処するかの判断軸は、物件ごとに持っておくと迷いが減ります。管理業務の付加価値をオーナーが認めている物件(報告の質・対応の速さを評価されている物件)では転嫁を、価格感が厳しい物件では効率化を優先します。すべての物件で転嫁を狙うと解約リスクが上がり、すべて効率化で押し込むと現場の品質と離職が代償になります。物件ごとに転嫁と効率化の配分を決めるのが、現実的な採算管理です。
数値例:賃上げ5%が粗利をどう削るか(試算)
計算式は「月額委託料 −(人件費 + 外注費)= 粗利」です。
月額100万円の管理委託物件で、原価80万円(人件費60万円 + 外注費20万円)、粗利20万円、粗利率20%とします。
- 現状:100万円 − 80万円 = 20万円/月の粗利(粗利率20%)
ここで人件費が年5%(3万円/月増)上がり、委託料が据え置きだとします。
- 賃上げ後:100万円 − 83万円 = 17万円/月の粗利(粗利率17%)
- 粗利は月3万円、年36万円の減少(試算:3万円 × 12か月)
- 粗利率は20% → 17%へ3ポイント低下(試算)
粗利20万円の物件が3年間賃上げを吸収し続けると、粗利は月20万 → 17万 → 14万 → 11万円へ、5年目には半分近くになります(試算)。転嫁するなら委託料を月103万円にする必要があります(3万円を上乗せ)。この数字があれば、更新面談での交渉は「値上げのお願い」ではなく「人件費3万円増の事実の共有」になります。
よくある失敗
- 粗利だけ見て人件費の配賦をしない:「粗利は出ているのに会社の利益が出ない」は、配賦漏れが典型的原因です。巡回人員の時間配分を含めて配賦しましょう。
- 全物件一律の効率化目標: 効率化できる物件と、人員配置が最低限の物件を同じ基準で追うと、品質事故を起こします。物件ごとの工数実態を先に測定します。
- 効率化の成果を値下げに使う: 効率化で生まれた余力を値下げ競争に投入すると、業界全体の賃上げ余力が消えます。効率化の果実は、人件費の上昇吸収と技術者待遇に使う設計が長期的です。
よくある質問
Q. ビルメン事業の原価はどう分けて計算すればいいですか?
収入は物件ごとの月額委託料を管理費・維持清掃費・法定点検費などの内訳に分け、原価は常駐・巡回の各人員の人件費(給与+社保+経費)を担当時間・担当物件数で配賦し、外注(清掃・設備メンテ・警備)は請負型の月額として計上します。「月額委託料 −(配賦後人件費+外注費+消耗品・諸経費)= 物件あたり粗利」を出すのが4ステップ手順の本体です。
Q. 賃上げ5%で粗利はどれくらい減りますか?
記事の試算では、月額100万円・原価80万円(人件費60万円+外注費20万円)・粗利20万円の物件で人件費が年5%(月3万円増)上がり、委託料が据え置きの場合、粗利は月17万円(粗利率17%)まで低下します。粗利の減少は月3万円・年36万円で、3年間吸収し続けると粗利は月11万円まで落ちる計算です。
Q. 賃上げへの対処は価格転嫁と効率化のどちらを優先すべきですか?
物件ごとに決めます。管理業務の付加価値(報告の質・対応の速さ)をオーナーが評価している物件では転嫁を、価格感が厳しい物件では効率化を優先します。すべての物件で転嫁を狙うと解約リスクが上がり、すべて効率化で押し込むと現場の品質と離職が代償になるためです。
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出典・参考資料
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 — 職種別の賃金水準を示す公的統計(本文で参照する賃上げ圧力の根拠)
- 公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会 — ビルメンテナンス業界を代表する全国組織の公式サイト(業務登録・資格・実態調査などの一次情報)
- 原価の内訳比率・計算例は、当社の導入支援・検証業務に基づく一般的な分析(本文中の数値はすべて試算・目安)
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